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日本よ、南シナ海の対中警備包囲網をリードせよ 山田吉彦(東海大教授) [中国南シナ海南沙諸島・尖閣諸島・沖縄基地移設関連]

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出典:http://www.sankei.com/


9月15日、安倍晋三首相は、ベトナムの最高指導者であるグエン・フー・チョン共産党書記長と会談し、ベトナムの海上警備能力の向上のため新造の巡視船や巡視艇を供与する方針を表明した。巡視船は南シナ海のパラセル諸島(中国名・西沙諸島)の海域で紛争を未然に防ぐための警戒にあたることになる。日本は既に6隻の中古巡視船(漁業取り締まり船)を供与しているが、安倍首相はさらに同国の海上警備体制を支援する姿勢を明確に示したのだ。







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出典:http://news.yahoo.co.jp/


 いうまでもなく、これは南シナ海を自国の海にしようとする中国への対抗と見るべきである。パラセル諸島は1974年に中国軍がベトナム軍(旧南ベトナム)を駆逐し、以降、諸島の全域を支配下においているが、地理的にはベトナムにも近く、ベトナム漁民の生活の海ともなっている。周辺海域はベトナムと中国、台湾が領有権を主張しており、武装した中国船とみられる船舶にベトナム漁船が襲われ、漁獲した魚や漁具、航海計器などが奪われる事件が頻発している。ベトナム国内の報道では、今年に入り8月までに約40隻のベトナム漁船が、中国船とみられる船から攻撃を受けているという。今年7月には、操業中の漁船が3隻の中国船らしき船に体当たりされ、沈没する事件も起きている。11名の漁師は僚船に救助されたが、体当たりした船は救助もせず逃亡した。中国海警局の警備船ではなく、民間船を使って、ベトナム漁船をパラセル諸島周辺海域から排除するという中国の戦略がうかがえるのだ。



 南シナ海をはじめとしたアジア海域では、密輸、密航、密漁、海洋環境破壊などにより海洋秩序が乱れているのが現状だ。国家間では海底資源の開発の競合、漁業管轄権を巡る対立など、紛争の火種となる事象が山積している。この混沌とした情勢の中、中国の海洋侵出は、フィリピンやベトナムなどアジア諸国の脅威となっている。南シナ海においては、中国がスプラトリー諸島(中国名・南沙諸島)で7つの人工島建設を強行するなど「力による現状の変更」が進められ、紛争の気配が見え始めている上、民間船を使った中国による海域支配の既成事実化も進められているのだ。これらは脅威としかいいようがない。

脆弱なASEAN諸国の力


 中国とASEAN諸国の間では、2002年 に「南シナ海行動宣言(DOC)」を合意し、領有権紛争の平和的解決、事態を悪化させる行為の自制、協力事業の推進などを確認しているが、中国が合意を守 らず強引に海洋侵出を進めるため、ASEAN諸国は、DOCに法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範(COC)」の策定を求めている。一国対一国の紛争解決 を求める中国に対し、多国間のルールづくりにより中国の横暴に対峙しようというのだ。今年8月、マレーシアで開催されたASEAN地域フォーラムにおい て、ASEAN諸国と中国の間ではCOC協議を加速することで合意したようだ。

 しかし、妥協する素振りを見せながら、一切本質を変えず、国家すなわち共産党の意思を貫き通すのが中国である。協議を引き伸ばしながら、着実に中国海警局の態勢を充実させるなど、自国の海洋管理を確立させる動きを進めている。

  2014年にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議に中国の代表として参加した王冠中・人民解放軍副参謀長は「南シナ海は2000年以上前から中国 の支配下にある」という趣旨の発言をした。中国が、習近平国家主席の指導の下、「中華民族の偉大なる復興」を目指して「海洋強国」となる戦略を進めている のは周知の事実だ。

 中国は、南シナ海海域全体を「九段線」の考えに基づき、中国の領海と位置づける。九段線は、南シナ海に点在する島々を 囲い込むように九つの線を引き、その内側の海域全体を管理下に置こうとするものである。1994年に発効した国連海洋法条約では、領土である陸地を基点と して、その陸地から最大12海里(約22・2キロ)の領海と200海里(約370キロ)までの排他的経済水域の設定が認められているが、九段線内側にある スプラトリー諸島には20ほどの島や岩礁があり、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの国々の領有権の主張が重複し、簡単に領海や排他的経 済水域を設定できる状態にない。そのために中国は島の領有問題を無視し、海域全体を支配しようというのだ。

これに対抗するアジア各国の海洋警備力はまだまだ脆弱であり、中国には太刀打ちできないのが実情である。中国とフィリピンやベトナムなどの国々が、偶発的に武力衝突を起こす可能性も高く、紛争を事前に抑止するためにも、一刻も早くCOCを合意しなければならないのだ。

  それと並行して進めなければならないのが、アジア各国の海上警備力の強化における国際協力体制の構築である。COCにより、海域の安全確保のための法的拘 束力ができたとしても、現状ではそれを管理する機関はない。そのため、各国の海上警備機関の能力向上と連携、協力体制の構築が求められるのだ。






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出典:http://news.yahoo.co.jp/

「海賊対策」で支援に実績

  まずは、各国の海上警備機関の人材育成と能力向上が課題だが、ここで重要になるのが日本の役割だ。先にも述べたように、中国は軍事力や自国の警備船の力を 背景にしながらも必ずしもこれを表面に出さず、民間船を使うなどして、支配の既成事実を進めている。これまで「海賊対策」として、アジア各国の海上警備能 力の向上を支援してきた我が国の役割に対する国際的な期待は大きくなっているのだ。

 日本の積極的関与のきっかけはマラッカ海峡における海 賊事件だった。マラッカ海峡を中心とした東南アジア海域において海賊が多発し、問題になっていた1999年、日本人の船長、機関長と15人のフィリピン人 の船員の乗った貨物船アロンドラレインボー号が海賊に襲撃され、積荷のアルミニュームインゴットを乗せたまま行方不明となる事件が起きた。アロンドラ号の 17人の船員は、海賊により救命いかだに乗せられてマラッカ海峡に放置され、11日間漂流したうえ、通りかかったタイの漁船に救助されたが、この事件は日 本人の生命財産を守るためには国際的な海洋安全施策が必要であることを教えたのだった。

その後、日本が中心となり、海賊対策でアジア各国の海上警備機関が協力する枠組み構築へ動き出したのである。2000年、東京において海賊対策国際 会議が開かれ、それに続き、東南アジア各国が持ち回りで海賊対策長官級会議、専門家会合などを開催し、情報の連携、共同訓練などを実現した。日本は、アジ ア各国で開催される会合の支援、フィリピンコーストガードの人材育成やマレーシアの海上警備機関「マレーシア海事法令執行庁」の創設サポートなど、各国の 能力向上に貢献したのだ。

 アジアにおける海上警備協力の成果として、2009年には、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)が結ば れた。現在、この協定はアジア諸国のみならず、英国、米国、ノルウエー、オランダなどの国々が参加し、加盟国は20ヶ国に上っている。インドネシア、マ レーシアは条約に加盟していないものの、オブザーバーとして協力関係にある。ReCAAPの締結は、アジア海域の凶悪な海賊事件を減少させるとともに、ア ジア各国の海上警備機関の相互連携を促進させる役目を果たした。この日本が中心に進められた海賊対策は、「マラッカモデル」と呼ばれ、国際的な海上警備協 力の成功例として高く評価され、後年ソマリア海賊対策にも応用されている。

 こうした実績を踏まえ、アジア海域における海洋警備を中心とし た安全保障体制の構築に寄与することが日本に求められているのだ。実際、日本はアジア各国の海上警備能力の向上を装備の面でも支援してきた。2008年、 インドネシアに対し、海賊対策のため3隻の巡視船を供与したのを始めとして巡視船、巡視艇の供与を進めている。当初、武器輸出三原則に抵触するのではない かと議論されたが、2011年12月、「平和貢献、国際協力に伴う案件は、防御装備品の海外移転を可能とする」という当時の野田佳彦首相(民主党)の方針 により武器輸出三原則が緩和され、巡視船供与は円滑化されることになった。平和安全保障法制の成立に反対した民主党だが、当時、海外において展開する安全 保障協力に積極的であった。

最近も、冒頭に紹介したベトナムへの中古巡視船、新造船の供与のほか、2013年安倍首相がマニラを訪問した際に、フィリピンに対して政府開発援助 (ODA)の資金を使い、10隻の巡視船を供与する方針を表明している。そして今年6月には10隻のフィリピン向け多目的船の新造が開始された。長さ44 メートル、25人乗りの多目的船は、2016年から2018年にかけて、フィリピン当局に引き渡され、現地で改装されコーストガードの巡視船として活躍す ることになる。


NEATで日本主導の提案

 最近、アジアの海上 警備に関する協力関係構築に向け、新たな外交的な動きが始まった。インドネシアのバンドンにおいてNEAT(東アジアシンクタンクネットワーク)の代表者 会議があったのだ。この会議はASEAN+3(日中韓)に参加する国々のシンクタンク代表者が集まり、ASEAN+3首脳会議に上程する議題を決める会議 だが、参加者は各国の外務省関係者も含まれていた。この会議が開催されるにあたり4つのワーキンググループが設けられ、代表者会議にそれぞれのプランが提 出された。その4つのプランは首脳会議に上程される議題の候補としてこの会議で審議されるのだが、中国も含む全参加国が満場一致でなければ、廃案となると いう厳しい条件も課される。

 4つのワーキンググループのテーマは、中国が中心となった「貧困の削減」、シンガポールが取りまとめた「持続 可能な開発とより質の高い生活に迎えた都市計画」、タイにて作成された「交通システムのシームレスな連続性の構築-経済回廊における多様な交通システムへ の移行」、そして、日本が中心となり提案した「東アジアの海洋安全協力」である。この日本中心の提案は、いわば海洋安全保障の問題であり、国家の主権の枠 組みを超え、国際法に基づきアジア海域の海洋管理を行おうとするものだ。当初から白熱した議論が展開されることが予想されていたが、実は筆者も関わってい て、会議にも参加した。

一概に海洋安全保障といってもそれに関わる分野は、多様であり複雑化している。アジア各国ごとに重視する点が微妙に異なる。ベトナムは経済発展を重 視し、その阻害要因となる中国の軍事的脅威を問題視している。マレーシア、ミャンマーは密輸、密航。特にロヒンギャ族などの難民の流入、流出の問題。イン ドネシアは、密漁を中心とした漁業管理の問題を重視している。今回の会議には参加しなかったが、フィリピンは中国による領土、領海の侵略を重要な問題とし て意識している。シンガポールや日本は、自由航行の保証と安全確保を前面に打ち立てている。さらに、各国からは海洋環境の保全を求める声も強い。


  何よりASEAN諸国と中国の間では、COC南シナ海行動規範の策定を巡る意見の対立もあり、海洋安全保障に向けた動きは、各国ともに必要であることを認 識していても、動き出すことが難しい。そこで、海賊対策における国際協力関係の構築で原動力となった日本が中心となり、新たな海洋安全保障のフレームづく りを進めようというのだ。

 日本の提案は「総合海洋管理」という考えに着目し、アジア海域における航行安全の確保、海洋犯罪の根絶、海洋環 境破壊の防止などを推進するため、アジアの国々が連携し国際的な海洋安全保障のためのフレームづくりを進めるものである。そして、エリアケーパビリティと 呼ばれる「国」という枠組みを超えた「地域力」の強化を目指す。

 海洋管理に関する情報共有センターの設置も求めるものだが、・国際法に基 づく海洋管理に関する人材の育成、・ASEAN+3参加国による海洋関連大臣会合の実施、・海洋に関し総合的に情報共有するための専門家会合の実施、・海 洋の生物多様性の保全、海洋資源開発などアジア海域の「地域力」を付けるための共同研究-などが提案の中に盛り込まれている。

日本外しで対抗? 中国の暗闘

 提案を通すための最大の障壁は、他国を無視して海洋侵出を進める中国の存在といっていいだろう。実際、事前に行われたワーキンググループの会合では、マレーシア、フィリピンから中国の戦略への非難があり、アジア海域の海洋管理、海洋警備協力の難しさを感じた。

中国との調整は本会議の前夜、「場外」において行われた。中国の要望は、COCを今回の提案には織り込まないというもので、 COCの協議に日本を絡ませたくないという意思が透けて見えた。結局、COCに関しては今回のプランで上程しなくても、COCだけでも議論が可能なので触 れないことで合意したが、中国の要望には海洋のみならず上空の安全の問題も含まれており、この点は警戒しなければならない。会議からの日本外し、さらに米 国の影響力排除につながる恐れがあるのだ。

 海上では、船は他国の領海でも自由に通航できる無害通航権を持つが、領土と 領海の上空である「領空」の通過は、国家の主権の範囲にあり、自由に行うことはできない。つまり、南シナ海の海洋安全確保の議論であれば、自由通航が許さ れているため日本も海域利用者としての意見を述べることができるが、上空の問題となると南シナ海に領土を持たない日本は発言権を持たないことになるのだ。 海洋と上空の議論を一体化することにより、日本と、そしてアメリカを「域外国」として、議論の場から排除しようというのが中国の狙いと考えられる。今回の プランでは海洋問題に絞り提案することになったが、今後も警戒が必要であることはいうまでもない。

 アジアの海洋安全保 障協力は、本格的に動き出そうとしている。大国の力による現状の変更を阻止するためにも関係国の協力することは重要である。総合海洋管理のフレームづくり が進められ、海上警備機関の協力体制が確立すれば、いずれ、アジア諸国による合同海洋警備船隊の創設も可能となるだろう。海は人類共通の財産である。海の 安全を守るためには国家の枠組みを超えて活動することが不可欠である。日本は、海洋国家日本はその中心となり、海洋アジアの地域力の強化のために貢献する 必要があるのだ。


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出典:http://news.yahoo.co.jp/










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